それから数日はいつも通りの日々が過ぎたが、日常の変化は突然、起こる。


「ねえ、早苗聞いた? 秋山に彼女いるんじゃないかって話」
お昼休みに早苗ちゃんたちが私の席に来て、話をちょこちょこふられるのに疲れた秋山が離席した時。
穂高さんが早苗ちゃんに声を潜めて聞いた。
早苗ちゃんは目を見開いたあと、眉をしかめた。
「なにそれ」
「秋山がこないだ女の子と二人で歩いてるのみたって」
「だれ?」
「4組の夏村?さん」

……なっちゃんだ。
私は嫌なドキドキを感じて思わず顔を俯かせた。

冬海さんたちは西小だから、なっちゃんのこと、あまりたぶんしらない。

「夏村さんって、バスケ部の子だよね?」
「あーそうだと思う」
「でもなんで? 秋山とその子に接点なくない?」
「なんでかはわかんないけどさ」
曖昧な情報に、早苗ちゃんは瞳を揺らして、唇を噛み締めた。
「どうしよう。もしほんとだったら……」
そのまま顔を覆って落ち込む彼女に、穂高さんが慌てて肩をだく。
「大丈夫だって! 秋山に聞いてみる?」
「そうだよ! ただの噂なんだし」
二人が慰めるのを私はただ黙って見ていた。

秋山の気持ちを知っているし、私が口をだしたところでウザイだけだと思ったからだ。

「あ、」
秋山が戻ってきたので思わず声をあげると、早苗ちゃん以外の二人がバッと秋山をみた。
秋山は急に注目を浴びたことに目を瞬かせて、なに?と一言だけつぶやく。
「ねえ、秋山、彼女できたの?」
「急に何?」
「なんか、噂になってるよ。四組の夏村さんと付き合ってるって」
何人かに既に聞かれたのかもしれない。
秋山は噂について驚いた様子もなく、はあ。と一回ため息をついた。
「付き合ってないけど」
その言葉に早苗ちゃんも顔を上げて、三人はぱあっと顔を輝かせた。
「そっか! おかしいと思ったんだー。しゃべってるのみたことないし」
「二人で歩いてたのも見間違いだねきっと」
きゃっきゃっいいだした三人を秋山は冷めた目で見つめていた。

「秋山って好きな人、いるの……?」
早苗ちゃんが一通りはしゃいだあと、意を決したように秋山に上目遣いで問いかける。
「いるよ」
秋山は躊躇することも早苗ちゃんを見ることもなく断言した。
その言葉に三人は目を見合せて、早苗ちゃんの代わりに穂高さんが口を開く。
「え、それってこのクラスの人?」
「違う」
「別のクラスってこと? だれ?」
「なんでお前らにいわなきゃなんないんだよ」
ばっさりと切り捨てた秋山に、三人は気まずそうに黙り込む。
早苗ちゃんの瞳がまた揺れて、泣き出す前に自分の席へ戻っていった。
早苗ちゃんを追いかけるように二人も席を立って、場は静かになった。