「それかもっと自分の気持ち言えば? 思ってもいない陰口に付き合うなんて、バカみたいだろ」
瞬時に頬が熱くなった。
陰口をいっていることを秋山は知っていて、それを私が同調していることも知っているんだ。
「ズバズバいえる秋山には、私の気持ちなんてわかんないよ」
「わかんないね」
反撃も返り討ちにあって、私はなにもいえなくなる。
「俺は自分が楽しくない話のときは笑いたくないし、聞きたくないから。そんなんで付き合ってる関係なんて、いつか壊れるだろ」
「いつか壊れても、いまが、大丈夫だったらいいの」

あと3ヶ月。
3ヶ月耐えればクラス替えがあって、そしたらきっと。

「前も言ったけど、次のクラスも冬海たちと一緒だったらどうすんの。一年以上耐えんの」

考えたくない"もし"を秋山は突きつけてくる。
なんでこんなにも私をおいつめてくるんだろ。

「嫌なら嫌っていえばいんだよ」

「なんで?」

ぽろりと本音がすべりおちる。

「なんで、そこまで気にするの?」
「……春川見てると、イライラするから」
「……そっか。ごめん」

たしかに、秋山みたいなタイプは私を見るとイライラしてしまうかもしれない。
嫌だと思いながらも口に出せない私を、私も嫌いだから。

「謝るな」
視線が落ちていた私は、その言葉に思わず秋山を見てしまう。
「イライラするのは俺の勝手だろ。春川に謝られる筋合いないし」
ぶすっとして前を見ている秋山に、

「……一人の気持ち、秋山にわかる?」

そう、思わず問いかけてしまう。
秋山が私に視線を移すのをみて、私は握りしめている拳に視線を移した。

「おはよう、っていっても返事が返ってこないつらさとか、声をかけても嫌そうな顔されたりとか、空気みたいに扱われる気持ちとか、秋山にわかんないでしょ。それが、あと三ヶ月続くと思ったら、どうしようもなく怖いんだよ」

だから、なにもいえない。
本当はそんなこと思ってなくても、正義感かざして悪口なんてやめようよなんていったらどうなるかなんて考えたくもない。

「一人になんてなんないだろ」

その力強い言葉にハッとして、私はつい秋山を見てしまう。
秋山の真剣な眼差しに胸がどきんと波打つ。

「いったろ? 俺は、春川を一人にしないって」

それは、友達になった日。
秋山はたしかに私に、一人にしないっていってくれた。

どきん、どきんと心臓の音が身体中に響く。
抱いたことのない気持ちが私を戸惑わせた。


これ、なんだ。


「うわ。私、寝ちゃってた?」
窓にもたれていたなっちゃんが不意に顔をあげて目を擦りながら聞いて、私たちの会話は打ち切られた。
「あ、うん。ちょっとね」
私が曖昧になっちゃんに向かって笑うと、なっちゃんはんーと伸びをする。
「ごめーん。もう駅つくじゃん」
「疲れたもんねー」
そんなことを話していると、バスは駅に着いていた。

私となっちゃんは同じ方向で、秋山は逆方向なので駅でお別れをしてその日は帰った。
久しぶりに友達と遊んだ日、私は家に帰るとご飯を食べてお風呂に入るとすぐに眠ったのだった。