「ねえねえ、藍って好きな人いないの?」
そう言って私に問いかけられた質問は放課後の教室に残っている私たちの空間を静まり返らせることになった。
 「ねぇ藍ってば!」再び問いかけられ私は我に返った。
 「あ、ごめん。色々考えちゃった」と言って口角を無理矢理あげた。
 私に好きな人の質問をしてきたこの子は、同じクラスの山本一華だった。一華は自分のことを『いち』と呼ぶ。とても綺麗な顔立ちで、昼休みになるとよく他のクラスの男子や先輩がわざわざ見に来るほどだ。そんな一華と私は幼馴染であり、お互い隠し事はしたことがない。
 「今はいないかな、…うん。当分できないと思うな。」と私は言った。
 「そっか、まだ忘れられない?」一華が言った。私の中に引っかかっていることを指摘され、視線が泳ぐ。
 「あはは、やだなー。もう吹っ切れてるし、今となってはいい思い出だしー!」私はこの話を辞めたくて、自分から終わらせた。
 「そっか、じゃあ好きな人できたら教えてね!いちと恋バナしよーね」一華が少し残念そうに言う。でもこれでいいんだと私も頷くことしかできなかった。そう、これでいいんだ。思い出して自分の想いが溢れてしまわないように隠していなきゃいけないんだ。