浪漫大正黒猫喫茶

「そう言えばちょこさん。言い忘れていましたが、今日は午前中でお店を閉めますね」

 カップの手入れをしながら、マスターさんが言う。

「あっ、やっぱりそうなんですか? 私、いつもは締めまでのところ、今日は午前中の予定だったので、何かあるのかと思っていたんです」

「ええ、所用で。よろしければ、経験も兼ねてご一緒に如何ですか?」

「一緒に、ですか? 一体どちらへ?」

「うちで扱っている珈琲豆の調合をして頂いているお店です。午後からは、それを取りに行き、ついでに夕飯もどこかで頂いてしまおうかと」

「夕飯も……」

 これって、お仕事のことだけでなく、ご飯も一緒に行きましょうってお誘い……?
 そんなの、

「い、行きます…! 絶対に!」

 断る理由なんてなかった。
 机の埃取りにも熱が入るというもの。

「おやおや、ちょこさんは本当に仕事熱心ですね」

 食い気味の反応が余程おかしかったのか、マスターさんはしばしクスクスと笑っていた。
 理由はそれ以外にあるのだけれど――言えば、恥ずかしさから爆発してしまう。
 少なくとも今はまだ、それを口には出来ない。