風が吹くと桜は答える
さらさらという音で答える

咲きながら彼女は
風を待った

桜は夏が来ても
彼が来るのを
ひそかに待っていた
風は、来なかった

彼女の美しい桃色の衣装は
不運な激しい雨がさらう

風は風同士の噂でのみしか
彼女を知る術がない

風は吹くも吹かぬも
空次第で海次第
彼はどうしようもなかった

またねと言葉交わして
秋の風は来年来る
または来ない

桜は、太陽や芋虫や
たんぽぽとともに咲いても
風を、思い出す

風と桜は
別れたように見えても
また出会う
または出会わない

私が見る、風と桜の
秋の物語に
ホットドリンクのごとく匙をいれ
掻き乱すことなどできやせず

たださすらいの老人が
人生は長いさすらいである
死ぬまでが希望であると吟ずる
その反対向きの帽子に
コインは投げ入れられることはなく
寒々しい裸足は私の心をうつ。

異なる世界線
ただドラマの外側の視聴者である

さあ、私たちの物語も
えがこう