幼い頃から父さんが大好きだった。一人っ子の僕にとって、父さんはお父さんであり、お兄ちゃんのような存在だった。3・4歳の時は、お父さんか仕事から帰ってくると、たとえご飯中でも、眠くても、遊んでいても、飛びついて抱っこしてもらっていた。父さんの仕事上、週に1日か2日しかない休みの日は本当は休みたいはずなのに僕のために時間を使ってくれた。公園に行ったり、戦隊ごっこをしたり、ドライブに連れて行ってくれたり、たまに家族で遠出をしたり。楽しかった父さんとの思い出を、まるで昨日のことのように今でも覚えている。小学校高学年から中学1年生になってまで、公園に行ったり戦隊ごっこなどは、さすがにしなかったが勉強を教えてくれたり、バイクの後ろに乗せてくれて海を見に行ったこともあった。だから大きくなっても父さんが大好きだった。
 けれど、父さんはある日倒れた。初めて見る大きな病院で診断されたのは『大腸癌』だった。もうお父さんに残された時間があまり長くないことを知った僕は、ショックを受けた。誰にもみられないところで泣いていたけれど、母さんは気づいていたらしい。1日1時間1分1秒でさえ、父さんと一緒にいたかった。初めての面会は照れくさくて『母さんが行くついで』にと、1時間程度だった。けれど、1週間もすれば、学校を休んで、父さんの病室にに面会時間ギリギリまで1日中いた。ほぼ、僕も入院しているようなものだったのかもしれない。父さんの担当の先生や看護師、同じ病室のおじさんたちにも、すっかり顔を覚えられて良くしてもらっていた。