約束通り僕は早乙女さんと一緒に過ごした。初日は何も起こらなかった。僕はその夜ベッドで安堵した。ただ正直に言うと、明日から、いや、これからどんな日々が待っているのだろうと考えると少し不安もあった。
 翌日も、また同じ電車に乗った。そして、『おはよう』と挨拶を交わす。そして僕はずっと気になっていたことを聞くことにした。
「あのさ、」
沈黙が続く。
「怖い?」
良い言葉が思いつかなくて、僕が言いたいことが伝わらなかったかもしれない。早乙女さんは表情を変えずに、黙っている。我ながら言葉選びが、下手くそだと悲しく思う。そんなことを考えていると、早乙女さんが口を開いた。
「正直怖くないと言えば嘘になるよ。」
そりゃそうだよね。というか、僕の下手な問いの意味が伝わっていたのが少し嬉しかった。
「でもね、まだそんなに実感が湧かないっていうか」
僕は口を挟むタイミングじゃないと感じて、頷くだけにした。早乙女さんの本心をただ聞いてあげたかった。
「黒木くんと一緒にいると安心するから。だから、もし藤原さんたちに何かされても大丈夫。」
最後あたりは声が小さくなっていった。けれど、偶然電車に乗っている人が少ないせいか聞き取れてしまった。僕はその言葉の意味を理解した後、
「え…?」
疑問の言葉を放っていた。理解できが、理解できない。僕のこと壊滅的な語彙力では到底表現出来ない不思議は気持ちだった。それ以降話すことはなく、お互い少し気まずい雰囲気で無言のまま、教室に向かった。