午前中の合唱コンクール。

 大きな拍手とともに、ピアノの前に立った柊先輩が、観客席に向かって頭を下げる。


 そっか。柊先輩、クラス合唱の伴奏をするんだ。

 ちなみに指揮者は小杉先輩だ。

 ピアノをやっていたって話は聞いていたけど、実際に柊先輩がピアノを弾いている姿を見るのははじめてで、なんだかドキドキする。


 指揮者と息を合わせ、静かに前奏を奏ではじめる柊先輩。

 その途端、柊先輩のピアノの音色に、全部持っていかれたような感覚。


 とってもキレイな音。

 さっきまでと同じピアノとは思えない。

 弾く人によって、こんなに違うものなの?


 なんなんだろう、この感覚。

 まるで、柊先輩のピアノの音とつながっているかのよう。

 他の感覚は全部マヒして、あたしと柊先輩しかこの世にいないみたい。


 歌がはじまっても、耳は柊先輩のピアノの音だけを追ってしまう。

 合唱をちゃんと聞かなくちゃいけないのに。


 サビの部分の一番盛り上がるところで、あたしは自分の目から涙がこぼれているのに気がついた。


 なにこれ。

 なんで泣いてるの?

 合唱に感動したから?

 それとも——。