「でも僕には茜ちゃんほどの歌唱力はないからさ。それに、さすがに一人じゃ同好会を立ち上げられないってさ。だよね?」

「ああ、まあ……そういうことにしておいてやるよ」

「だってさ」


 なんか無理やり言わせた感がバリバリあるんですけど。


「じゃあ、当日は僕がトナカイで、茜ちゃんがサンタね」

「いや、どう考えてもあたしがトナカイですよね!?」

 と言ってしまってから、ハッと気づいて口を押えても遅いってば。


 柊先輩がにやりとすると、「じゃ、そういうことで」と言いながら、小杉先輩に『同好会設立申請書』を差し出した。


「それじゃあ、俺の方で同好会設立の申請は進めておくから」

「うん。よろしく」


 紙を受け取った小杉先輩は、荷物を肩に引っ掛けると、さっさと教室を出ていってしまった。


 そして、静かな教室に取り残された、あたしと柊先輩。

 二人とも黙ったまま、時間だけがすぎていく。


「……で、なんの曲をやるんですか?」

「一緒にやってくれるの?」

 あたしの言葉を聞いて、柊先輩がぱっと明るい顔をする。

「だって、しょうがないじゃないですか。元はといえば、あたしが『コスプレして弾いたら』なんて言ったのがはじまりなんですから。……それに、コスプレしてあたしだってバレない前提なら、なんとかがんばれるかなって」


 それに、柊先輩のすごいところをみんなにちゃんと見て聴いて知ってほしい。

 それが、一番の理由かな。


 柊先輩の方をチラッと見ると、すごくうれしそうな顔であたしを見上げていた。