いやいや、今大事なのはそこじゃなくて。

 今、この家の中に、柊先輩と二人っきりってこと……ですよね?

 しかもここって、いわゆる防音室……ですよね?

 やっぱり、これって一刻も早く帰った方が……。

 きゅっとカバンの紐を握りしめ、口を開きかけたとき、柊先輩ががちゃんと扉を閉めた。

 完全に隔絶された世界に放り込まれたような感覚に、ごくりとつばを飲む。


「せん、ぱい……あの……」

 柊先輩がゆっくりと近づいてくる気配に、あたしは体を固くしてぎゅっと目を閉じた。


「てきとーにそのへんにカバン置いて、楽にしといて」


 通りすぎざまに柊先輩の声がして、恐る恐る薄目を開けると、部屋の一番奥まで歩いていった柊先輩が、大きなケースを手に取った。

「え……?」

 中から出てきたのは、バイオリンにしては大きいし、チェロにしては小さい。

「それって、ギターですか?」

 意外な楽器の登場に、柊先輩に尋ねると、「うん」とひと言。


 バンド演奏なんかで使われているようなエレキギターではなく、いわゆるアコースティックギターと呼ばれるやつだ。


「今の僕の相棒」

 そう言って、柊先輩がギターを掲げて見せる。