「えっと……柊先輩のお父さんとお母さんは……」

「うん? ああ、今仕事行ってる。だから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」


 いやいや、逆ですってば、柊先輩。

 だって、ここって柊先輩の家……ですよね?


 学区の端っこにある大豪邸。

 高い塀にぐるりと周囲を囲まれた、白壁の、まるで西洋のお城みたいな家。

 よく手入れされた庭には、白から濃いピンク色のコスモスや、色とりどりの大輪のダリアが咲き誇っている。

 明るく華やかな庭とは対照的に、玄関ドアから一歩家の中に入ると、薄暗くてしんと静まり返った空間が広がっていた。

 その一階の奥の一室。

 重そうな扉を開けると、室内には立派なグランドピアノが一台。

 壁際に置かれたショーケースの中には、いくつものトロフィーが飾られている。

 そういえばさっき、『うちの家族、クラシックしか音楽って認めてないとこがあるからさ』って言ってたっけ。