どうして柊先輩は、そんなに悲しそうな顔をするの?

 柊先輩のことを好きな人なんて、他にたくさんいるのに。


「はじめて音楽の趣味の合う人に出会えて、すごくうれしかったです。でも……」


 これ以上かかわりたくない。

 自分が傷つく前に離れたい。


「僕もすごくうれしかった。うちの家族、クラシックしか音楽って認めてないとこがあるからさ」

 柊先輩の声が、なんだか寂しげに聞こえる。

「そう、なんですか?」

「……なーんてね」

 そう言って、柊先輩がニカッと笑う。


 もうっ、今のウソだったの!?


「帰ります。さようならっ」

 ぺこりと勢いよく柊先輩に向かって頭を下げると、もう一度スタスタと歩きはじめた。


 けど、途中でなぜか足が止まる。


「……柊先輩も、一緒に歌ってくれますか?」

「うーん。僕、歌は歌えないけど、伴奏ならできるよ」

 あたしが振り向くと、柊先輩がにっこりほほえんだ。