「それって、sumokkaの曲だよね?」

「ひゃっ!」

 唐突に掛けられた声に、肩がびくんっと小さく跳ねる。


 今の鼻歌、ひょっとして聞かれてた!?


 暑さも一段落した10月のはじめ。

 穏やかな朝の空気に、気が緩んでいたのかもしれない。

 もしくは、周りが見えなくなるくらい、全力で鼻歌に集中していたのかも。

 誰かが近づいてきていたなんて、全然気づかなかった。


 恐る恐る声のした方を見ると、見知らぬ男子があたし・倉沢(くらさわ)(あかね)のすぐ隣を歩いていた。

 胸元につけられた校章の色からすると、二年生——あたしの中学の先輩だ。

 背がすごく高くて、ふわっとした色素の薄い髪。

 切れ長の目を優しげに細めてあたしのことを見下ろしているその人は、まるで絵本の中の王子様みたいに目鼻立ちのくっきりしたキレイな人で。


 ——あたしが近づいちゃいけない人種だ。


 警戒アラートが、頭の中でガンガン鳴り響く。