魔法の手~上司の彼には大きな秘密がありました!身も心も癒されたい~

「それじゃ、じいさんが困る」
「そう言われても無い物はない」

少し酔いも良い程度に回る。
頭の回転も悪くなる。

「じゃあ俺が決める」

「課長が…?」

「あぁ」と言いながらワイシャツのボタンを一つ外す。
いつもセットされた髪も少し崩れてるから

(その姿がヤバいです…)

本当に目のやり場に困ります。
いつもは冷静沈着を信条に仕事してるのに好きな男性の事となると冷静沈着なんて何処へやら。

「温泉とか良いよな」

温泉?!
既婚者が何を言ってるんだ?!
普通の男なら軽蔑もんだけど恋は盲目で複雑な気持ち。

「家族で…温泉?」

奥さんと二人で温泉と言いたいんだろう。
少しチクッと胸が痛む。

「家族?まあ家族、んー、家族な」

またまたチクッと痛む。
この手の話は避けないと自分が痛手をこうむりかねない。

「温泉は却下」
「じゃあ遊園地?」
「私を何歳だと思ってるの?」

結局決まらない。
そんなの当たり前。
欲しい物なら自分で買えるし行きたい場所も自分で行ける。

「お前の希望はお客さんより難しいな」

日本酒をクイっと煽る。

「外商の課長がめげる姿なんて滅多に見れないね」

私も負けじとレモンサワーをグイっと煽った。

「近いうちに連絡するよ」

結局“お断り”を繰り返してプレゼントとやらは決まらず2年越しの連絡先を交換してお別れした。

「携帯番号知っただけでプレゼントなのに」

別れて帰る道のりを軽くスキップしてしまったのは言うまでもない。

「私から連絡しなければ奥さんにも誤解はされないよね」

そう思うと軽かったスキップはゆっくりになり重くなってしまった。



おひとり様のスキルはレベルMAX並み。
一人で狩りどころか一人でボスすら倒せそう。
まあ…裏ボスも今の私なら一撃で倒せる。

「チーフって髪伸ばさないんですかー?」

「髪?」

ストレートのボブスタイルの私は耳下の髪を触って首を傾げた。

「綺麗な髪だから羨ましくて」

髪ねぇ…
私は逆に…

「私は鈴ちゃんの若さが羨ましい」

「お互い無いものねだりってやつですね」

ケラケラと明るく笑う佐原鈴(さはらすず)ちゃんは24歳。
3つしか変わらないのにこうも肌の張りも違うように見える。

「そうそう!!チーフ耳よりなお知らせがあるんですよ」

鈴ちゃんのお知らせはろくな話はない。
お知らせ=合コン
前回も聞いた耳より情報も合コンの話だった。

「まあまあその武器をパスタに向けてよ」