(イヴァン様は、非魔法家系の私やアイリスさんやリオンさんに優しくて、私を「イザベル」ではなく「ヴァイオレット」と呼んでくれる。そのことはとても嬉しい。でも、それだけで私はーーー)

どれほど部屋の前で立ち尽くし、考え込んでいたのだろうか。部屋の扉がゆっくりと開き、パジャマ姿のイヴァンが顔を覗かせる。

「ヴァイオレット?こんな時間にどうしたんだい?」

不思議そうな顔をイヴァンは見せる。その顔を、星のように煌めくアクアマリンの瞳を見ただけで、ヴァイオレットの緊張はさらに増し、言葉が出なくなってしまった。

「あの……その……」

落ち着きなく手を動かし、目をキョロキョロと動かすヴァイオレットを見て、イヴァンは「とりあえず中に入りなさい」と言う。ヴァイオレットは「はい。失礼します」と頷き、促されるまま部屋へと入った。

イヴァンの自室は、少し大きめのベッドとデスク、ソファ、そして観葉植物がいくつか並べられただけのシンプルな部屋だ。だが、ゴチャゴチャと豪華な調度品が並べられたランカスターの屋敷の部屋よりも落ち着きを感じる。

「そこに座って」

イヴァンはソファを指差す。

「し、失礼します」