うちの班のお弁当が終わると、トミーは機敏な動きで片付けをし、甲斐の班から逃げたいのか、さっさと次のポイントへ出発だ。


「ちょ! 神! 待ってくだせー」


と、遠くから切ない声が聞こえる中、私たちはずんずん進む。


またクルミ選手はマナを鉄壁ガード。ソフトなボディーコンタクトも含めつつ交戦中の模様。


こりゃクルミちゃんがいる以上、今日は話もできなさそうだな。


すると「いいの? 菜月ちゃん」と、隣を歩く松本さんが言った。


「仕方ないよねー。鉄壁だもんなー。私、戦いに参加すらしてない感」

と言って、私はハッとした。認めたらあかん。でももうバレてるな。


「必勝だよ、菜月ちゃん!」


「ね。でも全然ダメダメ」






午後の一つ目のポイントにたどり着いたところで、結局甲斐たちに追いつかれた。

さすがサッカー部男子とじゃじゃ馬娘たち。(いや、知らんけど)


「いいじゃーん。クラス違うんだし協力して一位目指そうよー」

とトミーの肩を組み絡む甲斐友達。

トミーは結局「好きにしてよ」と言わされていた。恐喝か。


なんだかんだ二班一緒に次のポイントに向かうことに。まあ、マナとも喋れなさそうだし私はなんでもいいけど。


と、集団の真ん中らへんを歩いていると、私は甲斐に後ろから手を引かれ、一番後ろまで引きずられた。


「ちょっと。松本さんが一人になっちゃう」


「あ、わりー」


松本さんが、忽然と消えた私を探して振り向いたので、ゴメーンと手で合図すると、ニコッと笑ってくれた。


するとその様子を見てたのか、丹田くんが松本さんの隣にスッと移動したのが見えた。


「丹田くんって気がきくというか、良く見てるよね。ねえ、そう言えば、なんで丹田くんとは仲良くしない方がいいの? この前言ってたよね」

と、私は甲斐にたずねた。


「それは……。見透かしてくるからな。厄介なんだよ」


「は?」

そんなボンヤリした理由かい。と、私はちょっと呆れた。


でも今日のバスで丹田くんと話したことを思い出すと、甲斐が丹田くんを苦手とする理由もなんとなく分かる気がした。


「そう言えば、この前の放課後、マナと二人で残ってた時ね。一番仲良い女友達に立候補したよ」


「は? 立候補?」


「うん。そしたら認定してくれた」


私はウキウキと話した。


すると、どんな反応するかなと思っていたのに、甲斐は「へー」とだけ言って黙ってしまった。


「そういえば甲斐、なんであの時、機嫌悪かったのよ」


「それを言うなら、なんでお前あの時泣いてたんだよ」


「あれは! マナが笑ってくれて。かかかか可愛いって言ってくれて。子供のようでって意味だと思うけど。感極まっちゃったの! 泣かないように我慢してたのに甲斐が来て涙腺が……」


私が必死にしゃべっていると、甲斐が急に立ち止まった。

「甲斐?」

私も立ち止まって振り返る。


「おーい! そこのバカップル! 置いてかれんぞー」

と、甲斐の友達からヤジが飛んできた。


「持田さん、急いでよ」と、トミーの声まできこえてきたので、私は仕方なく集団に駆け戻った。


「甲斐も急いで」

と、走りながら言うと、立ち止まっていた甲斐が歩き出したのでホッとした。


私はゼーゼー言いながら、松本さんのところまで戻った。

「た、ただいま」


「おかえりー」と松本さんと丹田くん。


そして、丹田くんは甲斐の班の男子二人の方を振り返った。

「持田さんと甲斐はカップルじゃないよ」


……ああ、さっきのバカップル呼ばわりの件か。と、私はげんなりした。


「いや、てゆーかさ、あんなに仲良くて逆になんで付き合ってないんだし」


甲斐班男子が私をチラッと見て言った。


私はもう弁解するのも面倒で、松本さんと話し始めた。

「このまま行ったら一番かなー? 右回りの人たち他にいないみたいだから、早いのが遅いのかわかんないね」

とか言っていたら、私は後ろから甲斐班の男子に頭を触られた。


「菜月ちゃん、この頭いいよねー。耳おっきいしサルみたいでマジかわいー。髪型だけボーイッシュって逆にエロいわー」


と、甲斐より派手な見た目のピアスの奴に、頭を撫でくりまわされる私。

「ちょっと……」と、嫌がるも離してくれず。


甲斐ー。助けてーと思いながら振り返るも、甲斐は俯いたまま遥か後ろを歩いていた。


そして調子に乗ったピアス野郎が肩を組んできやがった。


「そんでちっちゃー。肩ほっそー。甲斐のデカさじゃ合わなくね? あれのサイズとかさ」


ゲラゲラゲラ。最低だわー。とピアスの隣の男が笑う。