「じゃあさ」と、私はマジックを持つ手を止めた。

「一番仲良い女友達は? 誰?」

マナの顔を見据えてきいた。


マナも動かしていた手を止める。


そしてマナは「さあ?」と言って、私の方を見た。


その瞬間、「はい!」と私は椅子から勢いよく立ち上がって手を挙げた。


「あ?」とマナは怪訝そうに私を見る。


「立候補。私、仲良い女友達」


するとマナは目を大きく見開いて私をジッと見た。
驚いたかな? 初めて見る表情だった。


そしてすぐに、マナはぶーっと吹き出して笑い出した。


マナが!目尻にシワを作って、口を開けて笑ってる!!!

と、私はすぐにでもスマホを取り出してカメラで連写したい衝動を抑えつつ、マナの可愛すぎる笑顔に見とれた。


「なんでいきなりカタコトなんだよ。そんで立候補制な訳? 仲良い女友達ってのは」


私は赤面するのも忘れて、マナに見入ったまま動けなくなってしまった。


「しかも食い気味に『はい!』って。挙手」

ククク、とマナは噛みしめるように笑っている。


あー。今また、さっきよりもずっとマナを好きになってしまった。

おかしい。涙が出そうになる。


一通り笑い倒すと、マナは「はー久々に笑った」と言って、固まっている私に一瞥をくれた。


「じゃー、一番早かった持田さんで決定ということで」

まだちょっと顔に笑みの残るマナが、そう言った。


「え? 一番仲良い女友達の座? 決定?」

と私がきくと、マナはまた「ぷっ」と笑った。


「『座』って。もーやめろって。クイズ番組かよ」


またマナが楽しそうに笑う。


ダメだ。と、私はギリギリ涙をこらえる。


そしてどう反応したらいいのか分からなくなって、半ばヤケクソで「やったー」と万歳してみた。

泣き笑いみたいな変な顔になってたかもしれない。


すると、マナはまたぶーっと笑う。

「もーほんとやめろって。何歳だよ。可愛すぎだろ」


かわ…?!?!?!?!

と私は目を丸くした。けど、マナはただただ静かに笑い続けている。


まあ、子供の行動が可愛い的な。そういうのなのは分かってるけど。


それって女としてどうなんだ、と思いつつも、元々子ザルと思われてたわけだし、マナが楽しそうだからいいやと思って私も笑った。


マナはようやく笑い終えて、またしおりに向かったけど、時折思い出し笑いをしていた。


「風間くんがそんなに笑う人だったなんて」


「いや、そうそう笑わねーけど」


「じゃあ、レアだね。ふふ。丹田くんに自慢しよう」


マナは「それはやめろよ」と言って面倒そうに眉根を寄せた。


マナが。マナがマナが。

と、私の心の中は忙しかった。


私が一番の女友達でいいよって。


(子供のようで)可愛いって。


たくさん笑ってくれた。


気を抜くと泣いてしまいそうだった。


マジックでキュッキュと数字を書き込みながら、私は下唇を噛んで涙をこらえてた。


もうそろそろマナが部活に戻る時間だ。行って欲しくないけど、とにかくそれまで耐えろ耐えろ。


「マナ」


いきなり教室のドアが開いて飛んできた声に、私はビクッとなった。

恐る恐るゆっくり振り返ると、やっぱり甲斐だった。


「は? 菜月、なんで泣いてんだよ」


甲斐が驚いた顔をして、ドアのところから私を見やる。


泣いてる? 私が? と、自分の頬を触ると、あったかく濡れていた。


まずい。おそらく甲斐の声に驚いた時に、涙腺が。

せっかく耐えてたのに。せっかくマナが笑ってくれたのに。これじゃ台無しだ。


マナも驚いた風に私を見ていた。


「あ、これは違う。コンタクト。目が乾いちゃって。すごい眼力でしおり書いてたから」


私はマナと甲斐を交互に見ながら言った。


それにしても。甲斐とマナと三人の状況って初めてだ。


あれ? この状況、どうしたらいいんだろう。

この二人を同時に前にした時、自分がどう振る舞うべきなのか考えたこともなかった。


二人とも黙ってしまったので私は慌てて口を開く。

「それより、甲斐どうしたの? あ、風間くん呼びにきたの?」