翌日の五限ホームルームは林間学校のオリエンテーションだった。


授業の前半は、一年全体が体育館へと集められて林間学校の目的やら行動規範などをきかされた。


教室へ戻ると、先生が開口一番に「班は今の席順なー」と言った。


またもやミナミは、席から私の方を振り返り、親指を立てると活きのいいウインクをした。


「じゃ、机くっつけて班長と担当決めてー」


机をくっつける! と私は過剰反応。

マナが目の前に。


そして必然的に隣が丹田くん。マナの隣は癒し系の松本さん。あと丹田くんたちの前の席のその他二人。(雑)


「なんか席くっつけて班作るなんて中学の給食みたいだね」と、私は一人はしゃぐ。

「だよねー、楽しいねー」と丹田くんと松本さんがノってくれる。


そういや甲斐に、丹田くんとはあんまり仲良くするなと言われたけど、あれはなんだったんだろう。


甲斐はそういう、誰とこうするな、ああするなが多すぎやしないか?


自分は好きなように女の子と付き合って、私の親友にまで手を出してるくせに。


この不公平感。


あ、でも高校に入ってからは、甲斐が誰かと付き合ったとかきかないな。コソコソやってんのかな。



「あ、俺班長やるよ」と机をくっつけてすぐ丹田くんが言ってくれて、早々に班長が決定。


あとは飯盒担当を三人、キャンプファイヤー担当が二人とのこと。


「男女分けでよくないか」と丹田くんの前の席の男子が言った。(トミーと呼ばれているらしい)


担当男女別。そんなつまらんこと言うかね。枯れてるぜそんなん。

と、私が心の中で悪態をついていると、松本さんの前の席の女子がブーブー文句を言った。

「そんなのつまらないと思いまーす」


なんて気の合う。その他なんて言ってごめんなさい。
あんまり話したことないけど、私ランキングでミナミの次くらいに可愛いクルミちゃん。


「じゃあ、クジで決めよっか」と、丹田くん。

「さんせーさんせー」とクルミちゃんが押し切り、二人で何やらクジを作り始めた。


マナはどうでも良さそうに机に頬杖をついて成り行きを見守る。


私が目の前のマナをチラチラ何度も見ていると、マナは「なんだよ」とこちらも見ずに言う。


「え?」と私が能天気に聞き返すと、マナは「だから見過ぎだって。お前」と言った。


私は楽しくて仕方がないので、「あははは」と笑ってごまかした。


マナも少しは林間学校を楽しみにしてるといいのに。すごい興味なさそうだから。


そして班長の丹田くん以外の五人でクジを引いた。


「風間くん、なんだった?」と私はいの一番にきく。


「飯盒」


なんとマナと同じ飯盒担当をゲット。今回は不正はございません。


でもここで喜ぶべからず。と思っていたら、クルミちゃんが「キャー」と言った。


「私も飯盒だ! やったー、風間くんと一緒だ」


一同、シーン。

……え、クルミちゃんて。


「あ、私やったーとか言っちゃった。ごめんね、恥ずかしい」

と、クルミちゃんは口を押さえてほっぺをピンクにした。


マナは、無表情。そして無反応で腕を組んだまま微動だにしない。

さすがです。


その後は、気を使って私と丹田くんが喋りまくると言う辛い空気に。


でもクルミちゃんはマナの反応を全く気にしていないようで、時折ハート形の手鏡を取り出してはルンルン髪を整えたりしていた。だいぶ強いな。


そしてオリエンテーションが終わってそのまま流れ解散になると、マナと丹田くんはさっさと部活に行ってしまった。


松本さんと、楽しみだねーなんて話しながら帰りの支度をしていると、クルミちゃんが「菜月ちゃん、飯盒よろしくね」と言って近づいてきた。


「うん! 楽しみだね」


「ね。私、林間で風間くんに告白するつもりなんだ。飯盒の時とか二人で抜けるかもだから。よろしくね」


クルミちゃんはくるくるに巻いた長い髪を手で触りながら強気に微笑むと、そのまま行ってしまった。


……オーマイガッ! と私は頭を抱えた。


「風間くんモテるんだねー。飯盒、なんか大変そうだね」

と、松本さんが気遣いの言葉をかけてくれる。


私は引きつりながら、ぎこちなく笑うことしかできなかった。







「そんでクルミちゃんも一緒になって。そしたら皆の前で、やったー風間くんと一緒だーっつって。そんで帰りに、告白するからよろしくねって」


私はダラダラと、今日のオリエンテーションのくだりを甲斐に報告していた。


「いや、お前主語がなさすぎて全然わかんねー。誰が誰になんて言ってどうなったのか明確に話せよ。そしてクルミちゃんって誰」


また部活帰りの甲斐を呼び出し、今日は私の部屋で話していた。

リビングだとママがうるさいので。


「クルミちゃんは同じ班になった女の子。私的にはクラスでミナミの次に可愛い」


「あー小石川さんは美人ですもんね」

と甲斐が目を泳がせながら言ったので、私はジロリと見ながら「そうですね」と言ってやった。


「てか菜月、飯盒なんだ。俺も俺も」


「そんなことはどうでもいい!」と、私は抱えていたクッションにボフンと拳を下ろした。


「ひでーなおい」


「クルミちゃんが告白するんだって。マナに」


「勝手にさせとけば」と、甲斐はベッドのマットに寄りかかった。

「言ったじゃん。マナは告白されるの嫌い。どうせフラれるだろ。うまそうな名前の人」


「クルミちゃんね」と一応ツッコミを入れる。


「でもさ、ほんと可愛いんだよ。ザ・女子って感じ。髪の毛くるくるでポヤーンとしてて」


「それ褒めてんのか? 表現下手すぎだろ」


「褒めてるよ」


「ま、女の思う可愛いと、男の思う可愛いは違うしな。お前が思ってるよりクルミちゃんはそんなでもないと思うけど」


「え、クルミちゃん知ってるの?」

さっきと話が違うじゃないか。


「いや知らないけど。俺が知らないと言うことは。大したことないってこと」


私は呆れて甲斐のドヤ顔を見た。

高校に入ってからおとなしいと思っていたのに。可愛い子ハンター健在な模様。