敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?

「イケメンがいると聞いて!」

社会人初日を終えて学と阿久津が片付けをしていると、聞き覚えのある高い声が。

「あれ、花澤さんと間宮くん! お疲れ様」

振り返ると、すでにコートを羽織って帰り支度をした花澤が元気いっぱいにこちらに手を振っている。その隣には間宮も。

「阿久津さん、聞きましたよ。阿久津さんが新しく担当する新人さんがいるって! しかも結構イケメンだと」
「ああ、もうそんな噂立ってるの? 早いね。元々2人にはいつか会わせたいと思ってたから、今紹介するよ。こちらは佐伯 学くん」
「よ、よろしくお願いいたします」

突然現れた賑やかな阿久津の後輩に、学はカチコチになりながら挨拶した。

「やだ、ホントにカッコいい! うちの会社、美人は多いのにイケメンは少ないから貴重です」
「花澤さん、まずは挨拶して」

心なしかいつもより仏頂面の間宮が花澤を諌める。

「そうだった! 興奮して忘れてた。花澤美月です。去年まで佐伯さんと同じように阿久津さんに付きっきりで1年間お世話になってました。よろしくお願いしま〜す!」

まるで周囲にキラキラのエフェクトが出ているかのような眩しい笑顔を繰り出した花澤。自分が若い男ならきっと好きになってしまうだろう、と阿久津はいつも思う。

続いて、間宮が学の前に進み出る。

「間宮正吾です。僕も阿久津さんの後輩で、こっちの花澤とは今同じ部署です。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いいたします……! ええと、佐伯学と申します」

何故、間宮からこんなに威嚇されているのか分からないまま、学は不慣れな挨拶をした。阿久津はその様子を見て苦笑する。

「佐伯くんはまだまだ会社に入ったばかりだから、例えば廊下ですれ違った時とか、若手同士よろしくね」
「ええ、もちろんもちろん! 何でも教えます!」

花澤が首が折れんばかりに頷くのを、間宮は苦々しい表情で見つめている。

「というか、今日もし阿久津さんも佐伯くんも都合が良いなら佐伯くんの歓迎会やりませんか⁈ 私店探しますよ!」
「え、ホント? 行っちゃう? 佐伯くんも間宮くんも、予定大丈夫?」

もちろん阿久津は、これからの学の予定は家で夕食を食べるのみと知っているのだが、怪しまれないために改めて確認する。

「は、はい、僕は特に予定無いです」
「……俺も行けます」

学はおどおどしながら、間宮は少し不本意そうに承諾する。

「ようし、じゃあ決まり! 同じビルのここのお店とかどうです?」

花澤は嬉々としてスマホを阿久津に見せて、張り切っている。一方で本日の主役である学は、不安そうに阿久津へ視線を送ってくる。無理もない。学はおそらく仲間と飲み会など一度も行ったことがないのだから。いくら偉い上司の居ない非公式の飲み会だとしても、どう振る舞ったら良いか全く知識ゼロの状態である。

かといって、阿久津はこのチャンスを無碍にする気は無かった。学にとって、同年代の間宮や花澤と話せるこの機会は必ずプラスに働くだろう。そのうちもっと大きな仕事の飲み会に出たり、場合によっては幹事などもやらされることもあるかもしれない。だから今日は練習のつもりで是非とも参加してほしいのだ。

大丈夫だよ、絶対フォローするから。と阿久津は学に視線で伝える。まだ不安そうにしながらも、彼も覚悟を決めたようで阿久津にだけ分かるよう頷いて見せた。