写真には5人のいかにも裕福そうな家族が写っていた。夏場なのか、全員が質の良さそうな半袖シャツを着ている。父親らしき人は子どもたちを後ろから抱き込むようにして写っており、母親もそれを微笑みながら見ているという図だ。背景には涼しそうな高原らしき風景が広がっていた。
「確か、軽井沢の別荘にみんなで行った時の写真です。これが父と母で、これが兄と姉、それでこの端っこにいる暗そうな子どもが僕です。この頃から僕だけ髪が天然パーマでモジャモジャしてました」
「へえ、学くんまだあどけなくて可愛い」
「そう、ですか?」
「この頃、いくつ?」
「多分、小学校低学年くらいだと思います」
「そうなんだ! 結構この頃から背高めだね。社長も若い!」
阿久津がキャッキャしながら写真を眺めている一方、学はなんだか浮かない顔をしている。
「僕、家族の中で一人だけ浮いていませんか。ずっとそれがコンプレックスで」
「え、浮いてる? そうかな」
阿久津は改めて写真を眺める。言われてみると、確かに学の兄と姉は、パッチリとした上がり気味の目をしっかりカメラに向けて写っている。その自信ありそうな佇まいは、父親である佐伯社長の遺伝子を受け継いでいることがはっきり分かった。
対して学は、兄や姉の茶色がかったまっすぐな髪とは違う、天然パーマの黒々とした髪。そこから覗く一重の切れ長の目は、一見キツそうに見えるが、緩く結んだ口元や頰の赤みで凄く素朴な可愛らしい子に見えた。
結論。3人ともみんな可愛い。何なら阿久津にとっては身近で人柄を知っている学が1番可愛く思える。
「学くん可愛いじゃん。浮いてるっていうけど、高身長なところとか、似てるところもあるよ」
「可愛い、ですか……」
阿久津は褒めたつもりだったのだが、「可愛い」という表現は学からすると複雑なようであった。
「というか、お兄さんとお姉さんはお父さん似で、学くんはお母さん似じゃない? 髪の毛の感じとか、色白なところも似てる」
子ども達の後ろで微笑む学の母は、学と同じ黒々とした髪で、学ほどではないが少し癖がついている髪を上手い具合にスタイリングして美しく見せていた。
「ああ、多分僕は母に似ていますね。とは言っても顔はあんまり似てないでしょう」
「え? ああ、言われてみると……」
「体型や髪質は似てるんですけど、顔はプチ整形やらで色々変えてる、と母本人から聞きました。母も、父のように生まれながらにして全て持っている人間に強くコンプレックスを持っていたようです」
確かに、学の母の顔のつくりを見ると、学とあまり共通項は見当たらなかった。学は鋭めの一重、母は家族の中でもかなりはっきりとした二重。彼女の唇や涙袋も、言われてみると何かを入れたような不自然さがあった。
「母は、父や兄妹達と違って僕に勉強しろとは言いませんでした。自分も学歴や職歴は華々しいものでは無かったからかもしれないです。その代わり、僕に愛情もありませんでした。勉強のことだけでなく、生活面や内面についても、ほとんど、何も……言われたことはなかったですね。そんな感じだから、似ていると言われるとなんだか複雑です」
学は淡々と話しているように見えたが、その目はいつもより潤んでいるように見えた。
「……なんて、すみません! 阿久津さんにこんな話して。暗くなっちゃいましたね。せっかくイメチェンしたのに、中身がこれじゃ」
無理に笑って話題を変えようとした学を、気づいたら阿久津は自らの手で引き寄せ、抱きしめていた。学の喉がヒュッと鳴ったのが聞こえる。拒絶は無く、彼の大きな体は大人しく阿久津の胸におさまった。
「確か、軽井沢の別荘にみんなで行った時の写真です。これが父と母で、これが兄と姉、それでこの端っこにいる暗そうな子どもが僕です。この頃から僕だけ髪が天然パーマでモジャモジャしてました」
「へえ、学くんまだあどけなくて可愛い」
「そう、ですか?」
「この頃、いくつ?」
「多分、小学校低学年くらいだと思います」
「そうなんだ! 結構この頃から背高めだね。社長も若い!」
阿久津がキャッキャしながら写真を眺めている一方、学はなんだか浮かない顔をしている。
「僕、家族の中で一人だけ浮いていませんか。ずっとそれがコンプレックスで」
「え、浮いてる? そうかな」
阿久津は改めて写真を眺める。言われてみると、確かに学の兄と姉は、パッチリとした上がり気味の目をしっかりカメラに向けて写っている。その自信ありそうな佇まいは、父親である佐伯社長の遺伝子を受け継いでいることがはっきり分かった。
対して学は、兄や姉の茶色がかったまっすぐな髪とは違う、天然パーマの黒々とした髪。そこから覗く一重の切れ長の目は、一見キツそうに見えるが、緩く結んだ口元や頰の赤みで凄く素朴な可愛らしい子に見えた。
結論。3人ともみんな可愛い。何なら阿久津にとっては身近で人柄を知っている学が1番可愛く思える。
「学くん可愛いじゃん。浮いてるっていうけど、高身長なところとか、似てるところもあるよ」
「可愛い、ですか……」
阿久津は褒めたつもりだったのだが、「可愛い」という表現は学からすると複雑なようであった。
「というか、お兄さんとお姉さんはお父さん似で、学くんはお母さん似じゃない? 髪の毛の感じとか、色白なところも似てる」
子ども達の後ろで微笑む学の母は、学と同じ黒々とした髪で、学ほどではないが少し癖がついている髪を上手い具合にスタイリングして美しく見せていた。
「ああ、多分僕は母に似ていますね。とは言っても顔はあんまり似てないでしょう」
「え? ああ、言われてみると……」
「体型や髪質は似てるんですけど、顔はプチ整形やらで色々変えてる、と母本人から聞きました。母も、父のように生まれながらにして全て持っている人間に強くコンプレックスを持っていたようです」
確かに、学の母の顔のつくりを見ると、学とあまり共通項は見当たらなかった。学は鋭めの一重、母は家族の中でもかなりはっきりとした二重。彼女の唇や涙袋も、言われてみると何かを入れたような不自然さがあった。
「母は、父や兄妹達と違って僕に勉強しろとは言いませんでした。自分も学歴や職歴は華々しいものでは無かったからかもしれないです。その代わり、僕に愛情もありませんでした。勉強のことだけでなく、生活面や内面についても、ほとんど、何も……言われたことはなかったですね。そんな感じだから、似ていると言われるとなんだか複雑です」
学は淡々と話しているように見えたが、その目はいつもより潤んでいるように見えた。
「……なんて、すみません! 阿久津さんにこんな話して。暗くなっちゃいましたね。せっかくイメチェンしたのに、中身がこれじゃ」
無理に笑って話題を変えようとした学を、気づいたら阿久津は自らの手で引き寄せ、抱きしめていた。学の喉がヒュッと鳴ったのが聞こえる。拒絶は無く、彼の大きな体は大人しく阿久津の胸におさまった。
