「できました、千絵さん! どうでしょうか……?」
15分後、学は自分が組み立てた全身コーディネートをテーブルに広げて見せてくれた。千絵と阿久津は互いに顔を見合わせる。
「え、そんなにダメでしたか? あ、あの、不安になるので何か言ってください」
二人から何もコメントが無いことを不安に思った学は焦っている。
「あーいや、違うの。最初にやったコーディネートだから正直たくさん改善点があると思ったんだけど……あんま言うことないな」
千絵が首を捻る。
「つ、つまりそれは」
「いや学くん、センスあるね。私なんかよりずっと。それなのにテストなんかやってなんか恥ずかしいわ。ね、沙耶」
「うん。私はファッションの難しいことは分からないけど、インスタのお洒落な若者が着ていそうということだけは分かる」
このメンバーで一番ファッションに疎いことが判明した阿久津は、まるで会社のおっさん上司のようなコメントしかできなかった。
「こりゃ心配無いわ。もしかして学くん、実は自分で着ないだけで服けっこう好き?」
「引きこもりで一年中スウェットなので全然知識は無いですけど……でも、色の相性とか、どういうシルエットがバランス良いかに関しては、もしかすると絵を趣味で描いているのでそのおかげかもしれません。さっきの千絵さんの講義で最近のトレンドとかも掴めたので、それもあって……」
「へえ! 絵を」
千絵は目を丸くした。
「はい。お恥ずかしい趣味なんですけど」
「え、そう? 私の友達、イラストとか漫画描いてる子結構いるよ。いいじゃんいいじゃん」
やはり父親に否定され続けたせいで自分の絵の趣味を卑下するきらいが学にはあるのだが、千絵は阿久津とはまた違った形で彼を肯定してくれた。そのおかげか学も千絵に趣味の話ができるくらい心を開けたようだ。
◇◇◇
「今日はありがとうね」
学の変身計画がひと段落し、夜も遅くなりそうだったので千絵は帰ることになった。阿久津は財布から現金を抜き、彼女に渡そうとした。こうした美容師の出張サービスにはどれくらいかかるのか、相場は大体調べた。
「え? 良いよそんなに沢山」
案の定千絵は遠慮したが、阿久津も譲れない。
「表参道の店長クラスを呼んで、何時間も講義してくれたんだよ? これくらいはお礼しないと」
「友達なんだからいいよ」
「友達だけど、プロとしての仕事を依頼したわけだから」
二人が金銭の受け取りで押し問答していると、聞いていた学から声がかかった。
「あの、二人とも良いですか」
振り向くと、髪がスッキリしたばかりの学がスマホを持って立っている。
「今日の料金ですが、僕も阿久津さんと同意見で、千絵さんにはお金をお支払いすべきだと思います。こんなに素晴らしい仕事をしてくださって、感謝しかないです」
「そうだよね!」
阿久津は学の同意を得てますますお金を渡す手に力が入る。だがそこで学の待ったがかかった。
「ですが、阿久津さんが支払うのは違うと思います。阿久津さんは依頼主ではあるけど、千絵さんは阿久津さんのプロデュースをしたわけではないからです」
「ええと、そうなるとつまり」
阿久津が言いかけると、学は頷いた。
「そうです、今日の料金は僕が支払いますので」
「え、ちょっと、それは学くん」
だってあなた、働いてないじゃない。お金持ちだけどそれは、お家のお金……などと言いかけたが、流石に学のプライドが傷つくか。隣の千絵も同じことを思ってしまったのか、何やら気まずそうな表情で黙っている。
「あ、あの。阿久津さん。多分、阿久津さんのおっしゃりたいことは分かります。僕のお金じゃないんだから、父さんのお金なんだから無駄に使っちゃ駄目だと」
「いやそこまでは」
学に心を読まれた阿久津はぎくりとした。
「大丈夫です。正直、ここの家賃分などは高額すぎて家の財力を頼ってしまっていますが、今日のお金は、僕自身の稼いだお金で支払えます。実は臨時収入があったんです」
臨時収入? 一体何の? 阿久津たちの頭に疑問符が浮かんだ。
15分後、学は自分が組み立てた全身コーディネートをテーブルに広げて見せてくれた。千絵と阿久津は互いに顔を見合わせる。
「え、そんなにダメでしたか? あ、あの、不安になるので何か言ってください」
二人から何もコメントが無いことを不安に思った学は焦っている。
「あーいや、違うの。最初にやったコーディネートだから正直たくさん改善点があると思ったんだけど……あんま言うことないな」
千絵が首を捻る。
「つ、つまりそれは」
「いや学くん、センスあるね。私なんかよりずっと。それなのにテストなんかやってなんか恥ずかしいわ。ね、沙耶」
「うん。私はファッションの難しいことは分からないけど、インスタのお洒落な若者が着ていそうということだけは分かる」
このメンバーで一番ファッションに疎いことが判明した阿久津は、まるで会社のおっさん上司のようなコメントしかできなかった。
「こりゃ心配無いわ。もしかして学くん、実は自分で着ないだけで服けっこう好き?」
「引きこもりで一年中スウェットなので全然知識は無いですけど……でも、色の相性とか、どういうシルエットがバランス良いかに関しては、もしかすると絵を趣味で描いているのでそのおかげかもしれません。さっきの千絵さんの講義で最近のトレンドとかも掴めたので、それもあって……」
「へえ! 絵を」
千絵は目を丸くした。
「はい。お恥ずかしい趣味なんですけど」
「え、そう? 私の友達、イラストとか漫画描いてる子結構いるよ。いいじゃんいいじゃん」
やはり父親に否定され続けたせいで自分の絵の趣味を卑下するきらいが学にはあるのだが、千絵は阿久津とはまた違った形で彼を肯定してくれた。そのおかげか学も千絵に趣味の話ができるくらい心を開けたようだ。
◇◇◇
「今日はありがとうね」
学の変身計画がひと段落し、夜も遅くなりそうだったので千絵は帰ることになった。阿久津は財布から現金を抜き、彼女に渡そうとした。こうした美容師の出張サービスにはどれくらいかかるのか、相場は大体調べた。
「え? 良いよそんなに沢山」
案の定千絵は遠慮したが、阿久津も譲れない。
「表参道の店長クラスを呼んで、何時間も講義してくれたんだよ? これくらいはお礼しないと」
「友達なんだからいいよ」
「友達だけど、プロとしての仕事を依頼したわけだから」
二人が金銭の受け取りで押し問答していると、聞いていた学から声がかかった。
「あの、二人とも良いですか」
振り向くと、髪がスッキリしたばかりの学がスマホを持って立っている。
「今日の料金ですが、僕も阿久津さんと同意見で、千絵さんにはお金をお支払いすべきだと思います。こんなに素晴らしい仕事をしてくださって、感謝しかないです」
「そうだよね!」
阿久津は学の同意を得てますますお金を渡す手に力が入る。だがそこで学の待ったがかかった。
「ですが、阿久津さんが支払うのは違うと思います。阿久津さんは依頼主ではあるけど、千絵さんは阿久津さんのプロデュースをしたわけではないからです」
「ええと、そうなるとつまり」
阿久津が言いかけると、学は頷いた。
「そうです、今日の料金は僕が支払いますので」
「え、ちょっと、それは学くん」
だってあなた、働いてないじゃない。お金持ちだけどそれは、お家のお金……などと言いかけたが、流石に学のプライドが傷つくか。隣の千絵も同じことを思ってしまったのか、何やら気まずそうな表情で黙っている。
「あ、あの。阿久津さん。多分、阿久津さんのおっしゃりたいことは分かります。僕のお金じゃないんだから、父さんのお金なんだから無駄に使っちゃ駄目だと」
「いやそこまでは」
学に心を読まれた阿久津はぎくりとした。
「大丈夫です。正直、ここの家賃分などは高額すぎて家の財力を頼ってしまっていますが、今日のお金は、僕自身の稼いだお金で支払えます。実は臨時収入があったんです」
臨時収入? 一体何の? 阿久津たちの頭に疑問符が浮かんだ。
