敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?

千絵の手が加わっていくうちに、学の顔がどんどん明るくなっていくように阿久津は感じた。それは、千絵のテクニックにおかげもあるだろうし、学の内面から発せられる何かの効果という感じもした。

髪を切って、色々とレクチャーしながらワックスで整えていく。学は癖毛だが、それを活かしたセットの仕方が良いと言う。千絵はアイロンの使い方も教えてくれた。

さらに、眉毛を整える。学の元の眉の形は細く、そこそこ整っているので無駄な産毛を処理した。それだけでも垢抜けた印象に。

「はい、完成! どう? 学くん」

合わせ鏡で後ろ姿も見せながら千絵が尋ねる。学の様子はというと、聞くまでもなく、新しい自分に気分が高揚しているようだった。

「自分じゃないみたいです。ありがとうございます……!」

学もとても嬉しそうだ。

「沙耶、どう? 学くんカッコよくなったよね」
「うん、すごく爽やかになったね! もう普通にこのままお洒落な若者として街歩いてそう」

話を振られた阿久津は、正直な感想を述べる。千絵の腕も凄いが、長い前髪を切ってようやくちゃんと見えた学の目やおでこを見ると、千絵が「良い原石」と言った意味も分かった。

「やっぱり僕、癖毛なんで他の人みたいには整わないかもしれないんですが」

照れを誤魔化すためか、少し自虐する学。

「そんなことないよ! むしろパーマみたいで良い感じ」
「そう、ですか」

阿久津が言うと、またいつもの癖なのか、赤くなって黙ってしまった学。

千絵の「原石」を磨く作業はまだ続く。