その“順調な”付き合いに水を差したのは
彼に大阪支社への異動辞令が下りた
クリスマス間近の寒い日だった


『棗、まだ学生の君について来て欲しいとは言わないよ
ただ、ここからは少しずつでも覚悟を決めて欲しいんだ』


真っ直ぐな彼の思いに触れて
“覚悟”の二文字を強く意識した


卒業まで一年と僅か、遠距離恋愛だって上手くいく

そんな私の自信はあっという間に砕け散ってしまった



◇◇◇



年末商戦で忙しい彼と会えるのはクリスマス当日

それも宝くじを当てるみたいな確率で予約してくれた人気店のディナーの時間だけ


街を彩る赤と緑。友人からの甘い報告を聞いているうちに


どうしても彼に会いたくて。イブの夜、彼の住むマンションへ向かった


とは言うものの合鍵を渡されていない私にできることは、ひたすら玄関の前で待つしかない

それでも、気持ちを抑えることができなかった


暗い夜道も“会いたい”気持ちが怖さを消す


そして、マンションまで後僅かという所で、前方を歩く彼の後ろ姿を見つけた、刹那


込み上げるのは負の感情だった


「・・・っ」


見間違える訳ない姿と親密そうに寄り添い歩く女の人


腕を組んで歩く彼の右手には買い物袋


あんなに弾んでいた気持ちは鉛を入れられたみたいに重く沈んだ


・・・馬鹿だ、私


どうせなら驚かせてやろうなんて
子供みたいなことを


何故思いついたのだろう


雪がちらつく寒さの中


足が根を下ろしたみたいに動けなかった


ただ、当たり前のように寄り添う彼と、彼を見上げて微笑む女の人


『今夜も腕によりをかけちゃう』


静かな所為で聞こえてくる会話に容赦なく刃が降ってくる


違う・・・動けないのは

誰よりも可愛く彼を見上げる愛しげな瞳を目の当たりにして


身体に力が入らなかったというのが実際のところだった




『・・・っ、・・・ん』




吸い込むだけで咽せるような冷たい空気に嗚咽を飲み込む

合鍵を渡されていないばかりか
彼の部屋で料理もさせて貰えなかった現実に

悲しさと悔しさが入り混じって喉の奥が焼けるように熱い


込み上げる黒い感情を隠すよう、一度も振り返らなかった二人に背中を向けた