この五年、最低でも月に一度は風馬と実家に帰って、家族とご飯を食べるようにしてきた


それぞれの家に帰っても、両親がお互いを呼び出して結局は合同の食事会になってしまう


新興住宅地の何期目かの販売に申し込み、たまたま隣になっただけなのに


まるで両親ですら幼馴染のような仲の良さ

子供の性別は違うけれど単なるお隣りさん以上の関係に
両親も当初ここまで仲良くなるとは思わなかったらしい



「ママおかえりーーっ」


玄関の扉を開いた音だけで飛び出してきたのは楓


「ただいま。楓」


「ママ!きょうはハンバーグだよ」


「やった。楽しみっ」


楓に手を引かれて居間に入ればカウンターキッチンの中から母が手を振ってくれた


「風馬君はあっち?」


「うん」


私にお帰りを言うより先に風馬のことを聞くのは昔から


そして・・・この後は


「それで?あんた達まだ付き合わないの?」


この質問も昔から


いつもは笑って流すテンプレートを終わらせる日が遂にやってきた


「付き合ってるよ」


「・・・え」


鳩豆顔の母は久しぶりに見た


「だから、付き合ってるって」


再度の念押しに母は包丁を持ったまま焦り始めた


「ちょ、ちょ、待って、棗、落ち着いて!」


「いやいや母さんが落ち着いてよ」


ここでようやく包丁をまな板に置いた母は楓をすごい勢いで手招きした


「楓ちゃん!ばぁばの頬を摘んでみて」


若干躊躇いながらも近づいた楓は迷いなく母の頬を摘んだ


「ばぁばいたい?」


「・・・どうしよう。痛い」


五歳の楓が摘んだところで痛くはないだろう


「ママ、ばぁばいたいって」


小さな手で母の頬を撫でる楓を見ているだけで
昨日までの怒涛の日々が浄化されるような気分