「風馬君、よね」
「・・・・・・ぁ」
業務終了後、帽子とマスクを着けて露出を少なくした風馬と人集りを通り抜けようとした私の前に
顔を合わせるのは七年振りの同級生が現れた
「久しぶりっ、元気だった?
茉莉乃《まりの》のこと覚えてるでしょ?」
風馬の腕を容赦なく掴んで食い気味に喋る姿を見ながら
不愉快な思い出しかない金村茉莉乃を眺める
反応の薄い・・・違うか
完全に引いてしまっている風馬は
腕を振り解くタイミングを逃してしまったようで
三十センチほど下から攻めてくるブリブリとあざとい彼女を困惑気味に見ている
そろそろ助け船をだそうかと思ったタイミングで、こちらを向いた彼女は
「あっれ〜、棗ちゃんってまだ風馬君の腰巾着のままなの〜?」
不愉快なほど語尾を伸ばして片眉を上げた
・・・腰巾着って
なによ!と言おうとした私より
「棗のことを悪く言って欲しくないっ」
風馬が彼女に掴まれた腕を振り解くのが先だった
「キャァァ」
「・・・っ」
その反動を利用して金村茉莉乃は
あろうことか風馬に抱きついた
「あ〜びっくりしちゃったぁ
風馬君、今のは危なかったよ?
棗ちゃんと違って、茉莉乃は細くて小さいんだから次からは気をつけてね」
抱きついたまま風馬を見上げる様子に
胸の中にどす黒い思いが広がる
「離れてくれないか」
意識がその黒に覆い尽くされる寸前
風馬が拒絶反応を示したことに顔を上げた