それは、雑誌発売の翌日だった



「・・・どういうこと」


月に二度、レガーメの噴水広場で開催する登録会より、遥かに長い行列が開店前に出来ていた


「風馬効果だな」


「・・・っ」


隣で書類を揃える新志の手伝いもせずに立ち尽くす私の後ろで扉の開く音がした


「「「「キャァァ」」」」


ガラス越しとはいえ、その悲鳴にも似た歓声を聞くだけで
行列を作った若い女の子達の目的が風馬にあると確信した


その勢いたるや凄まじくて恐怖さえ感じてしまう


「どうした、棗」


当の本人は通常運転のようで
少しホッとするけれど

この状況は・・・不味い


「風馬が雑誌に出ちゃうから
風馬目当ての女の子達が列を成してんの」


「・・・っ、俺、今日は部屋からでない」


「懸命な判断ね」


そそくさと部屋に戻った風馬の気配を背後に感じながら
社員の小室さんが番号札を発券する様子を眺める


「・・・?」


笑顔で対応しているその表情が、徐々にに曇っていくのに時間はかからなかった


「応援行ってくる」


アンテナの高い新志は私の身体が動くより先に小室さんの元へと向かった


その様子を眺めているしかできない私と対象的に、あっという間に戻ってきた新志は


「登録に来た訳じゃないんだと」


違和感の答えに肩を竦めてみせた


ザッと見たところ女の子達だけで十五人以上見える

そのどれもが風馬目当て?


突きつけられた事実は、醜い感情を引き出すには十分で

ポケットの中から携帯電話を取り出して耳に当てた




◇◇◇




「もう来ない、よな」


向かい側から懇願するような視線を送ってくる風馬は今朝の行列のことを思い出したのか
落ち着かせるように自分の胸をトントンと叩いている


「とりあえず守衛室には通したんだから巡回を多くしてくれるでしょ」


「・・・・・・うん」


朝イチの行列は守衛室に対処をお願いした

いつもは外に出るランチも今日は一歩も出たくないという風馬のためにお弁当を買ってきた


「流石に帰りは居ないよな?」


「待ち伏せされてると思うよ」


容赦なく切り捨てたところで
風馬は大袈裟なくらい肩を落とした