風馬とよく行くのは組み合わせ次第で数十種にもなる豊富なメニューを誇る人気のスープ専門店
駅裏にあるマンションからは傘要らずの距離にある


その僅かな距離も風馬は私と手を繋いだ


「また迷子?」


風馬が触れる訳は分かっているのに
聞いてしまうのは何故だろう


「んや、棗と繋ぎたいから」


そして、期待通りの答えに堪えきれずに口元が緩む


「棗、帰りにアレ、買おう」


風馬の長い指が示す先には
駅ビルとデパートを繋ぐ広い通路に甘い香りを振り撒いているクレープの屋台が見えた


「ご飯も食べて、クレープも?」


風馬の甘いもの好きは私と同じレベル

だから二人で季節ごとのケーキ屋さん巡りも怠らないし
人気のスウィーツの為に遠出することも厭わない


「棗も食べたいだろ」


斜め上から降ってくる少し意地悪な風馬の声に


「うんっ」


即答してしまうのは仕方ない


何気ないお喋りをしながら歩いているだけなのに、周りの反応がいつもとは違うことに気づいた


「見て、あの人格好いい」
「イケメン」
「モデルさんかな〜」


耳から入るそれらは風馬のことを指していて
前髪を切ったことで素顔がバレてしまったからに違いない


既に満席だったスープ専門店の前で
並んで待つ間も


風馬はずっと私だけを見つめて話しているのに


私だけ、風馬の声より周りに聞き耳を立てていた


「棗?」


「・・・ん?」


「調子悪い?」


「・・・ううん」


「デリバリーにすれば良かったかな」


心配そうに下がる風馬の眉を見ていると、私のオデコに風馬の手が触れた


「ん・・・熱は無さそうだな」


「・・・ない、よ」


「本当に調子悪くないんだよな?」


「うん」


「良かった」


ふわりと微笑むその顔は、いつも口元しか見ていなかったこともあって破壊力抜群


その笑顔に釣られるだけで

トク、トクと強く刻む鼓動が風馬に聞こえちゃうんじゃないかって焦ったり


今日の私はやっぱりおかしい


「見て、あの人格好いい」
「でも彼女持ちじゃん」



聞こえてくる雑音に奪われる意識




溢れてくる沢山の感情の中で


ひとつだけ

分かったことがある





それは






風馬を隠してしまいたいという






きっと、誰よりも醜い感情だった