風馬の長い指が私の前髪をそっと払う

触れた指先から伝わる熱が、また私の頬に熱を集めた


「棗」


これまで数えきれないほど呼ばれた名前が、特別なもののように聞こえる


その甘い声が耳に入ると同時にオデコに柔らかな熱を感じた


「・・・っ」


一瞬、思考の全てがフリーズして
離れていった風馬から目が離せない


今、オデコ、合わせた、よね?


頭が理解した途端にプチパニックに陥る私をギュッと抱きしめた風馬は


「棗、熱は無さそうだ」


更に甘く、甘く囁いた







「・・・っ、ぇ」


隙間なく抱きしめられた身体から
風馬の早い鼓動が伝わってきて

その早さが伝染するみたいに私の心臓も煩くする


・・・熱を、確認して


抱きしめた・・・?




プチパニックの私に


「棗、好きだよ」


風馬は甘い爆弾も投下してきた


・・・え


「ほんとう?」


「気がついた時には棗のことを好きだったよ」


「・・・」そんな


「これでも結構、好き好きアピールしてきたつもり」


こんなに近くにいたのに
風馬の気持ちに気づけていなかった


「生まれる前から一緒にいたからさ
気持ちは伝わるって、たかを括ってたんだ」


「・・・ごめん」


「違うよ、謝って欲しいなんて思ってない
たださ、これからは言葉にするよ
俺は棗が好き、ちゃんと俺を意識して欲しい」


「・・・風馬」


「どうしても無理なら、その時は潔く諦めるから、それまでは今まで通りでいて欲しい」


“今まで通り”とはルームシェアのことを言っているのだろう


居心地の良い風馬との毎日は、気心の知れた幼馴染だからじゃなくて
風馬の気遣いの上に成り立っている


周りから『付き合えばいいのに』なんて茶化されるたび

向き合いもせず、曖昧に笑って誤魔化してきた

晴雄のことがあって、同居を始めた日だって


『どちらかに恋人ができるまでね』なんてご都合主義の提案もした


私のことを好きだった風馬が受け入れてきた現実は、考えるより苦しいものだったんじゃないだろうか


もしも、幼馴染以上の感情が芽生えなくても

二人の距離を考える時がきたんだと思う


「風馬とのこと、ちゃんと考えるね」


「うん」


フッと緩んだ唇に視線が動く

子供の頃に見たフワリと微笑む風馬を思い出して胸がひとつ強く打った