side 風馬




「風馬」


俺の腕に抱かれて頬をほんのり染めている棗


俺に向けられる初めての反応に、これまで散々抑えてきた想いが溢れだしてきた


「思ったよりダメージ受けてるんだ
少しこのままで気持ちを落ち着かせた方がいい」


「・・・うん」


棗のことを思っての提案と言いたいところだが
本心は少しでも棗に俺を意識して欲しいという邪な考え


お隣さんで同級生、棗との関係は常に幼馴染で

年齢と同じだけ一緒に過ごしてきた距離をそろそろ縮めたいと思っている


起業して落ち着いたら告白するつもりだった五年前
その仕事がキッカケで棗はアイツに傷つけられた

もうあんな想いはたくさんだ




「・・・重くない?」


「いや、寧ろ軽くて心配」


今は俺より頭ひとつ分小さい棗も
幼稚園の頃は俺より大きかった


いつまで経っても集団生活に馴染めない俺は
誰とでも仲良くなれる棗だけが頼みの綱で
トイレ以外は常に棗の隣にいた

棗がお休みする日には一人で登園する勇気さえ待てなかった自分


そんな筋金入りの拗らせコミュ障の俺に愛想を尽かすことなく、傍にいてくれる愛しい棗を


一生、そばで守りたいんだ



「風馬」


「ん?」


「もう、下りても、いい?」


図らずも上目遣いの大きな瞳には
顔が半分隠れた俺が映っていて

ユラユラ揺れるその中を占領しているだけなのに

棗を抱きしめたくなる


アイツと別れてから五年
少々強引ではあったが同居にも持ち込んで
事あるごとにスキンシップは怠らなかったし
棗のためならなんでもできた


それなのに五年?って思うだろ


俺にとっての五年は、ほんとあっという間で
傷ついた棗を癒してあげるのを優先するあまり

「好き」という直接的な言葉を使うことを躊躇ってしまった

だから、自分のことに鈍い棗には伝わらないのも当然


でも、それも今日で終わり


俺のことをもっともっと意識して、余計なことを考えないようにすればいい


幼馴染から抜け出す一歩は



強引かつ、大胆に・・・。






side out