夕方になって、お城から馬車が迎えに来た。
 完成したドレスを着たお母様たちはそれはそれは美しくて、私は感嘆のため息をつきながらお母様たちを見送った。
 お迎えに来た馬車から降りてきた護衛の兵士の方が、何故かお母様たちの顔をみて爆笑していたけれど、女性に向かって失礼な方だと思う。
 ジョルジュお姉様だって男性かもしれないけれど心は女性だし、美しい方なのだから。
 私は内心ムッとしながらお部屋に戻った。
 そして祈るような気持ちでお母様たちの帰りを待った。もしかしたらお腹をすかせて帰ってくるかもしれないからと、お芋をゆでようと思って芋の皮むきを始めると、何故か裏庭に巨大なかぼちゃが鎮座しているのを窓の向こうに発見した。

「……かぼちゃだわ」

 リュシアンお姉様の魔法かしらと思ったけれど、お姉様はダンスパーティーにでかけたのよね。
 気になって裏庭に向かうと、そこには魔女の格好をした亡くなったお母様がいらっしゃった。

「お母様!」

『ラシェル、あなたを一人残して死んでしまってごめんなさい。今日は大切なお城の舞踏会の日なのに、あなたはここで独りぼっち。新しい家族にいじめられているのね?』

「そんなことはありません。皆やさしくしてくれます」

『女装をした変態たちにラシェルがいじめられていると思うと、お母様は死んでも死にきれなくて、神様にお願いしてもう一度ラシェルの元へ戻ってきたの』

「お母様! ひどいことをいわないでください、みんな優しい女性たちですよ」

『最後に一度だけ、あなたに魔法をかけてあげるわね。でもラシェル、魔法がとけるのは夜中の十二時。それまでに、家に帰ってくるのよ』

 なんて話を聞かないお母様なのかしら!
 私が言い返そうとすると、お母様は私よりもさきに手にしていた杖を振った。
 あっという間にかぼちゃが馬車にかわり、鼠たちが御者と馬に変わった。
 そうして、私のごく普通のワンピースとさっきまで芋の皮を剥いていたせいで土に汚れたエプロンが、美しい白いドレスへと変わった。

『さぁ、いきなさい、ラシェル』

「お母様!」

 私はお母様に文句を言おうと大声をだしたけれど、お母様は今生の別れを惜しむような顔をして手を振ると、私を魔法で馬車に押し込めた。

「……不審者が出るから、家の外には出て行けないとみんなに言われていたのに……」

 私の泣き言もむなしく、私を乗せた馬車はお城に突き進んだのだった。