「音楽室を通りかかったとき、ピアノを弾いてる星野さんを見たことあるんだ。すごく楽しそうな星野さんの笑顔と、いきいきとした演奏がすごく印象に残ってて」
 あのときの演奏、月城くんにも見られてたんだ!
 ただ、遊びで弾いてただけのつもりだったけど、そんなふうに思われてたなんて照れちゃうな。
「だけど、どうしてやめちゃったの? 好きだったのに」
「ええっ!?」
「好き」の二文字に思わず心臓がはねる。
「星野さんの演奏。いつも楽しみにしてたんだ。音楽室から聞こえてくるの」
 あ、演奏のことか……。
 そうだよね、ふだんあんなに女の子から人気の月城くんが、あたしのことなんか気にしてるわけないのに。
あたしの早とちり!
「それがね、先輩たちから注意が入ったの。受験をひかえて校内で勉強してる生徒も大勢いるのに、浮かれてピアノなんて弾かれると気が散る、って。あたし別に浮かれてなんてなかったけど、迷惑に思ってたひとたちもいたみたいで」
 残念だったけど、あれ以来、音楽室でピアノ弾くのはやめちゃったんだ。
「そうだったんだ……」
 月城くんは残念そうにうつむいたあと、心を決めたようにあたしの顔を見つめて。
「あのっ。うちのピアノでよかったら、いつでも好きに弾いてくれてかまわないから! 迷惑だなんて思わないし、また星野さんの演奏聞いてみたいから」

 月城くん、そんなにあたしのピアノ楽しみにしてくれてたんだ。
 うれしいな。
 なら、ここはちょっとがんばってみようかな?