「あのね、ちょっと勝手なお願いかもしれないんだけど――」
 と、店の奥を指さす月城くん。
 そこには木目調のアップライトピアノが置いてあった。
「うちのカフェ、今度のクリスマスイヴにイベントを計画してて。そのピアノで、クリスマスソングを弾いてくれるひとを探してるんだ。もし、星野さんさえよければだけど……手伝ってくれないかな?」
「ええっ?」
 驚くあたしに、月城くんはペコッと頭を下げて。
「やっぱりムリだよね? せっかくのイヴだし。ゴメン、ワガママ言って」
「ううん、予定は空いてるんだけど――月城くん、どうしてあたしがピアノ弾けること知ってたの?」
 月城くんは少し恥ずかしそうに目をふせて。
「星野さん、放課後よくピアノ弾いてただろ? 音楽室で」
「え? うん――」

 小さいころからピアノを習っていたあたし。
 高校に入ったばかりのころは、まだ友だちもいなくて。
 授業が終わったあと、そのまままっすぐ帰るのもつまらないから、誰もいない音楽室で、よくピアノ弾いて遊んでたんだ。
 クラシックや、さいきんのヒット曲にアニソンまで、とにかく思いつきでいろいろ弾いてたら、それを聞いたクラスの子たちが喜んでくれて。
 その子たちのリクエストした曲を演奏したりしてたんだ。