毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい



 カンカンカン、彼女が踵を鳴らして階段を降りてくる。纏わりつく裾を捌きながら急ぐ姿はパーティに遅れたヒロインみたいだ。

「こらこら、慌てると転んでしまいますよ。ゆっくりでいいですから」

「す、すいません! 仕事が立て込んでしまいましてーーきゃ!」

 言ってる側でよろける。私はすかさず腰を引き寄せた。ふわりと甘い香りが漂い、スイーツを作っていたのが伺われる。

「だから慌てないでと」

「すいません。せっかく峯岸さんとのお食事会なのに」

「カジュアルなホームパーティーですよ。遅れたって構いません」

「でも……」

「ご心配なく、到着が遅れる旨は連絡してあります」

「あはは、流石ですね」

 遥さんがイタリアに来て、半年が経とうとしていた。私の知り合いが営むレストランで働き、シェフとしての経験を着々と積む。

 今夜は峯岸夫妻に招かれ、夕食を共にする予定だ。ご覧の通り、働き者の恋人は送迎時間ぎりぎりまで作業をしてしまう。

「リップが少しだけはみ出してますよ」

「えーーんっ」

 本当は綺麗に色付いていたが、偽って口付けする。ドレスアップした恋人を前にすればこうせずにはいられない。

「ちょ、ちょっと結人さん! こんなところで」

「車の中ならいいですか? あぁ、なんなら部屋に帰りましょう。最近の貴女は仕事ばかりで構ってくれない」

「構ってくれないって……今朝だって、その、しましたよね?」

「あれは所謂いってきますのキスですが? もうずっとお預けをされてます」