毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

 私が結人さんに惹かれているのは隠しようのない現実だ。全神経を集中して彼の動向を探り、明らかに構われたがっている。

 それでいて臆病で疑い屋の自分が気持ちへブレーキも掛けていた。好きになってまた裏切られる、辛い思いをするだけだって。

「お邪魔しました。さようなら」

 伝わらないボリュームで挨拶する。礼を欠くと自覚はあるが、彼に諭されて甘やかされたら地団駄踏んで大泣きしてしまいそうだから。そんなみっともない真似したくないし、私とてスマートに立場を弁えたい。

 ホテルから自宅に帰る間の記憶は曖昧だ。色々な意味で夢みたいな1日だったから。

 朝の時点では気が重くて仕方が無かったくせ、結人さんと過ごすのが段々楽しくなりーー辛くなって。本来なら接点が持てなかった人との交流に甘く苦い感情を抱く。 

 たとえ結人さんを好きになったと認めても報われない。この手に届くはずがないと承知しているからこそ、自ら夢から醒めた。
 あんなキラキラして素敵な人は遠巻きに眺めているのに限る。

 彼はさしずめケースの中のホールケーキ。

 ケーキと言えば、私の誕生日が近い。結人さんとの出来事は早めのプレゼントだったと思おう。そして自分にケーキを焼いてあげよう。私を慰めるのは私しかいないんだ。