毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

 結人さんと私の関係は、懐中時計を壊された被害者と壊した加害者。観光案内は暇つぶし。私は何度も何度もそう唱えた。

 それが手料理を振る舞いたくなるほどに感情を動かされ、彼との格差に絶望している。最初から分かっていた事なのに、だ。

「私はリップサービスなどしてません。庶民とは? 私だって庶民ですが? あの、遥さん、落ち着いて下さい」

「私は落ち着いてます! 第一、あなたが近寄りすぎるから混乱するんです! 私は、私は結人さんと親しくなりたくない!」

 言葉を整理しきれぬうち、乱暴な気持ちをそのままぶつけてしまう。

「ーーっ!」

 これには流石の結人さんも顔を歪め、納得がいかない様子。無論、彼は少しも悪くない。

 自己嫌悪が頂点に達する頃、結人さんの携帯電話が鳴り響く。

「……仕事の連絡では? 構わず出て下さい」

「泣いてる女性を放っておけませんよ」

「泣いてません。これは目にゴミが入っただけです。早く電話に出て下さい」

「……」

 私が言うのも場違いであるが、痛みを伴う静寂に耐えられない。鳴り止む気配がない為、結人さんは溜息を噛み殺した顔で奥へ入っていく。

 そして通話中に私が逃げ出すのなどお見通しかか、セキュリティを解除する音がした。

 鍵を開けたのは止める気がないから。酷い言葉を投げとおいて、いざ引き止められないと傷付く自分が本当に、本当に嫌だ。

 そんな中、結人さんの冷静な受け答えが漏れてくる。

「いえ、大丈夫ですよ。特に問題はありませんので」

 私とのやりとりを着信相手に言っているのじゃない。それでも勘ぐってしまう。