「おや、マカロンはお嫌いですか? こちらのマカロンはとても評判が良いそうですよ。私は残念ながら甘い物は苦手でして。どうぞ遠慮せず召し上がって下さい」

 弁済に言及せず、紅茶とお菓子を勧める振る舞いが何だか不気味で怖い。
 これほどのイケメンを不気味に思う日がやって来るとはーーいかに失恋のショックが大きかったのか物語る。

「頂きます」

 葛城さんの笑顔に押され、マカロンを一口。

「いかがですか?」

「は、はい……美味しいです、とても」

「それは良かったです」

 懐中時計を壊してしまった気まずさの中でも旨味が感じられた。甘酸っぱいベリーの香りが鼻から抜けていくのと同時、元カレの去り際が過る。
 初めての恋愛だった。まさか二股をかけられているとは考え付かず、挙げ句、私の方が捨てられるとは……。

「何かお辛い事があったのでしょうね」

「え?」

「日本でも失恋をしたら髪を切るのでしょう?」

 切り揃えられた毛先を指摘してくる。

「私は女性の悲しい顔を見過ごせない質でして。貴女を癒やすマカロンに嫉妬してしまいますが、まぁ、良しとしましょう」