毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

「不愉快って、そんな」

「おや、逆に遥さんは私がバカにされたらーー腹黒秘書とか笑顔が嘘くさい秘書だの、指を差されても怒ってくれないのですか? 冷たいじゃないですか、こうしてデートをする仲なのに」

「妙に例えが具体的じゃないですか?」

「そうです? 気のせいですよ」

 含み笑いを浮かべ、別の展示物へ向かう。そんな彼の姿を噂する女性等が居て、格好いい、素敵と感嘆の声を漏らす。

 彼の表情は笑顔がデフォルト。笑顔の中に喜怒哀楽が存在するみたい。ニッコリ微笑んでいても怒っていて、戯けて口角を上げる時には喜んでいたり。私が大女とからかわれるのが不愉快と示した際は悲しそうだった。

「遥さん、こちらへ」

「あ、この懐中時計には蓋がついているんですね」

「ハンタータイプです。猟師がガラス面を保護する為に蓋を付けたのが由来とされ、施された装飾が美しいですね。ちなみに祖母の物はスケルトンと呼ばれてます」

 私の身近にある時計は時刻を報せるのがメイン、持ち主と共に時を重ねていく概念は無い。壊れれば買い直すだけ。
 懐中時計にはロマンが詰まっていると表現してもいい。親から子へ、子から孫へと修理をして引き継いでいく。
 故意じゃないとは言え、私は結人さんとお祖母様との絆を壊してしまったのだ。

「すいませんでした、本当に」

「謝らせたくて説明したのではありません。貴女に怪我が無ければそれでいい。時計の件は気にしていませんから。修理代も要らないですよ」

「……」

 有り難い言葉であるものの、はいそうですかと割り切れない。ここに修理の手かがりがあるとの期待も空振りで終わりそうだし。