毒舌オオカミ秘書は赤ずきんちゃんを口説きたい

 結人さんは変わらず笑顔。しかし言葉の端々に棘があって瞳の奥は覗けない。

 あんな酷い振られ方をしていなければ警戒心を抱く事はなかっただろうが、現在の心理状態だと優しさを素直に受け入れないし、発言も額面通り聞こえないのだ。

「予定が押してしまいますが、スーツが駄目であれば着替えてきます」

 一応、事前に観光する場所を幾つかピックアップしてある。なにせ昨日の今日なので完璧なコースとは言い難いものの、一般観光客ならば満足して貰えるはず。

 一般観光客ならば、だけれど。

「いいえ、着替えに戻らせるなんて真似はさせませんよ。最初はどちらへ案内して下さるのでしょう?」

 甘い言葉に靡かないのに気を悪くした様子はない。

「この近くに美術館があります。今は世界の時計を展示しているみたいで、壊してしまった懐中時計を直す手掛かりがあったらいいなぁと。あ、結人さんがそういう気分で無ければーー」

 代案を提示しようとすると、スッと人差し指を唇に当ててくる。細く長い指がほんのり冷たく、一瞬息が止まった。

「こんな可愛らしいガイドさんが私の為に計画してくれたのです。貴女に全てお任せしますよ」

「いいえ、結人さんのご希望があれば言って下さい」

 私は指を押し戻し、膝の上で鞄を開けた。