中条くんがやって来るようになった。

 意味が分からない。

 しかもいつもキスしたりハグしたりしてくるせいで、付き合ってるんじゃないか疑惑が上がってしまっている。


 中条くんを好きな女の子はたくさんいる。
 せっかくわたしが築き上げていた人間関係が崩壊の危機だ。


「あ、キミが小鳥遊さんだね」
「えっ、倉木くん?」


 移動教室から戻ったわたしを待ち受けていたのは、最近習慣になっている中条くんではなくて倉木真くん――生徒会長だった。


「な、ななななんで倉木くんが?」

「へぇ、晴馬に聞いてたけど、可愛い子だね」

「えっ、いえ、そんなことはないです」

「お世辞じゃないよ。本当に可愛い」


 やめて欲しい。
 ただでさえ中条くんに絡まれて人間関係崩壊の危機なのに、その上倉木くんにまでそんなことを言われたら、倉木くんのファンまで敵に回しかねない。


「ほら、晴馬って愛想ないだろ?」

「……」

「でもキミの話をするときはちょっとニヤニヤしてるから、すごく気に入ってるんだと思うんだ」


 話さないという選択肢は、わたしには与えられていないみたい。

 何も言ってないのに、倉木くんは話を進めてしまう。


「あのわたし、中条くんに好かれる覚えないんだけど」

「顔がいいからじゃないかな?」


 思わず目をすがめて倉木くんを見てしまいそうになって、苦笑に変更する。


「まぁそれは半分冗談。たぶん性格が好きなんだと思うよ。キミ、頑張り屋だし」


 意味が分からない。

 わたしが中条くんに好かれるなんて、普段の生活からは結びつかない。


「晴馬はキミのことを気に入ってるからね。これからも晴馬をよろしくね」


 嫌ですけど。

 わたしは中条くんのこと全っ然好きじゃないし。


 なーんて、言えたらよかったけど。

 わたしが中条くんのことを好きじゃなくても、倉木くんは友達なんだ。きっと悪口なんか聞かされたら気分が悪くなると思う。
 だから倉木くんには言えない。

 曖昧に笑ってごまかすと、倉木くんは帰って行った。