周りにはほかに誰もいない。


「い、いい加減離してよ」

「いやだ。もう少しこうしてる」


 さっきまで他の女の子と楽しそうに話してたくせに。


「別にわたしじゃなくてもいいくせに」


 そういうと、彼が抱きしめる力が強くなる。


「どういう意味だよ」

「さっき、女の子たちと話してたでしょ。けっこう楽しそうにさ」

「なんだよ。おまえがオレに言ったことだろ。もっとちゃんと対応しろって」


 それはそうだけど。

 でもあんなに愛想までよくなるとは思わなかったし。


「それにオレが囲まれててもおまえには関係ないだろ」

「……わたしにキスしたくせに」


 わたしにキスしたんだったら、わたし以外に優しくしないでよ。
 嫌だ。こんな風に思ってしまうのが嫌だ。


 でも、止められない。


「……あのさ、それってやきもちだろ」

「は? わたしがやきもち?」


 そんなの、まるでわたしが中条くんのこと好きみたいじゃないか。


「オレが他の女と一緒にいるのが嫌ってことはそういうことだろ。はは、可愛い」


 またもやキスが降って来て、されるがままになってしまう。


「可愛い、可愛い、可愛い。最高だな、百合は。表面を取り繕うところも、内心は冷めてるところも、全部可愛い」

「な、内心冷めてるとか言わないで」

「オレには到底できないことだから、尊敬してる。しかも可愛い」

「で、できてるでしょ。今は、中条くんだって」


 わたしが言ったとはいえ、行動したのは中条くんだ。

 中条くんが自分で人とちゃんとコミュニケーションを取ろうとした。



 中条くんの腕の檻に入ったままで、わたしはまだ聞いたことがなかったことを尋ねる。


「あんたわたしのことが好きなの?」

「決まってんだろ。最初に言っただろ」

「言ってない」

「嘘だろ……」


 中条くんは少し黙って、思い出しているらしい。


「……言葉より先に体が動いてた」

「素直すぎるのも考えものだね」

 中条くんはわたしと違って気持ちを素直に行動に出すタイプだから、仕方ないか。


「好きだ、百合」

「うん。知ってる」


 わたしは内心嬉しくなりながら、さらに言葉を続ける。


「知ってた? わたしも中条くんのこと好きなんだよ」