イミテーションはいらない

 足早に中条くんのクラスから出ると、曲がり角で倉木くんに遭遇した。


「小鳥遊さんだ。こんにちは、今日も可愛いね」


 倉木くんの「可愛い」は鳴き声だと思うことにした。

「どうかしたのかい? 落ち込んでいるように見えるけど」

「別に。なんでもない」


 倉木くんに話したところで解決するわけじゃない。

 これはわたし個人の問題だ。


「もしかして晴馬が何かした?」

「……うるさいな」


 つい。感情のコントロールを失った一瞬の隙をついて、悪態が外に出てしまった。


 やば、と思ったときにはすでに手遅れで、倉木くんは目を丸くしてわたしを見ている。



 そうかと思ったらにっこりと綺麗な笑みを浮かべた。


「今日の小鳥遊さんは、いつもよりも素敵だね」

「は?」

「いやいや、なるほど。晴馬がキミを気に入った……いや、キミに憧れた理由が分かったよ」


 この人、話通じない。

 自己完結してしまうせいで、こっちは何も理解ができない。


「晴馬はきっと」

「おい」


 倉木くんがわたしの耳に口を寄せて何かを言おうとしたまさにそのとき、後ろからぐいっと肩を引かれた。


「え、中条くん?」

「どういうつもりだ、真」


 わたしのことを見てなくて、高い位置にある倉木くんの顔だけを真っ直ぐに見ている。

 しかもその表情は今までに見たことがある不愛想でもなくて怒りがにじんでいた。


「そう怒るなよ」

「な、中条くん、よく分かんないけど喧嘩はよくないよ」


 そういうと、彼の顔がこちらを向き、あっという間に近づいてくる。


「え、中条く、んんんっ」


 え、やだ。またキスされてる。
 これで三度目だ。


 離れて欲しくてドンドンと胸を叩くけど、なかなか離れてくれない。


 しばらくしたらようやく離れてくれたけど、こっちは酸欠気味だ。


「うわぁ…………嫉妬は見苦しいよ」


 倉木くんの声にハッと我に返る。


 倉木くんに見られてた。
 は、恥ずかしい。


 前のときは誰もいなかったけど、今回はすぐ近くに倉木くんがいたんだ。


「な、中条くん、なんのつもりなの」

「……簡単に隙見せてんじゃねぇよ」


 そのままぎゅっと抱きしめられて、体温を傍に感じて顔が熱くなる。


「オレだけを見てろ」

「あのさ、僕がいること忘れてないかい?」


 倉木くんがそう聞くと、中条くんはしっしと手で追い払う。

 そんな粗雑な扱いにも嫌な顔をせずに、倉木くんは立ち去った。