それでもキミと、愛にならない恋をしたい


 楓先輩は初日からずっと数学を教えてくれる。

 公式を当てはめるだけじゃなく、どうしてそうなるのか、どう考えると理解できるのかを丁寧に説明してくれるから、苦手な数学の問題集がとても捗っている。

 けれど、私はさっきの出来事が頭から離れない。

 ずっと隣に座って勉強を教わっているけれど、目の前に座る京ちゃんと日野先輩のように、肩を寄せ合うことはない。

 声を潜めなくてはならない図書室でも、ガヤガヤと賑やかなファミレスでも、決して手や身体が触れないような距離で座り、明らかに一線を引かれている。

 以前は潔癖症かな?と思っていたけど、ここ数日の間に違うと確信を持った。除菌シートを持ち歩いているわけでもないし、頻繁に手を洗っているわけでもない。飲み物の回し飲みにも抵抗がなさそうだった。

 楓先輩は〝人に触れないようにしている〟と思う。それは私だけじゃなく誰に対しても、仲のいい日野先輩に対しても同じ。数ヵ月前の事故の時はたしかに寄り添って手を握ってくれたのだから、触れられないわけではないはずだ。

 なにか理由があるのだろうし、聞いていいのかもわからない。

 京ちゃんを怒らせてしまった日の夜、近くの公園まで来てくれた先輩の言葉を思い出す。