「ごめんなさい。あの、じゃあこの問三の問題からいいですか? 確率が特にわからなくて……」
プリントに視線を落として先輩の返事を待っていたけど、なかなか反応がない。不思議に思って顔を上げると、楓先輩がじっとこちらを見つめていた。
「……先輩?」
「雰囲気が違うなと思って。髪か」
「あ、はい。さっき京ちゃんがしてくれて」
「へぇ。可愛い」
先輩のセリフを聞いた途端、バクン!と心臓が大太鼓のように重く響く音を立てた。
そういうことをさらっと言わないでほしい。これから集中して勉強しようと思っていたのに、なにも頭に入ってきそうにない。
それなのに私を盛大に照れさせた張本人は、素知らぬ顔でプリントを自分の方に引き寄せると、「あぁ、確率ね」と頷いてペンケースからシャーペンを取り出した。
「これ数Bでも出てくるから、基本を押さえとかないとついていけなくなるよ。まずこの場合、図にしてみるとわかりやすくて」
そう言ってノートに図と数式をスラスラ書いていく。
私は真っ赤に染まっているだろう顔をなんとか隠そうと、両頬を手のひらで覆いながら先輩の解説を必死に聞いていた。



