そう思って身構えたのと同時に、バカな考えが一瞬よぎった。

これで家に帰らずに済むかもしれない。お母さんのところにいけるかもしれない。

今思い返しても、信じられない考えだ。そのくらい、突然お父さんから告げられた事実はショックだった。

けれど、トラックに轢かれて死ぬ未来は訪れなかった。

誰かが、私の腕を思いっきり引っ張って一緒に歩道に転がったから。

おかげで間一髪事故にはならず、トラックの運転手に窓から「危ねーだろ!」と怒鳴られるだけで済んだ。

その間、私は運転手に謝ることも、助けてくれた誰かにお礼を言うこともできなかった。

ただ自分の置かれている状況や、一瞬でも頭をよぎった恐ろしい感情や、それ以外にもたくさんのことが一気に押し寄せてきて、なにも言葉がでなかった。

その代わりに、呆然と見開く瞳から涙がぽろぽろと流れて止まらない。

路上に座り込んだまま、ただひたすら泣いた。