ただ、怖そうな雰囲気を纏っているのに、実はとても優しいと知っているから、つい先輩を見かけると目で追ってしまうことが増えただけ。
私は心の中で自分に言い聞かせながら、ある出来事を思い出していた。
あれは高校受験の合格発表の翌日だった。午前中からの雨が止んだものの、まだ空はどんよりと厚い雲に覆われた寒い冬の日。
無事に志望校に合格したというのに、私の心の中はぐちゃぐちゃだった。
どうして? なんで?
悲しみや怒り、それを口に出せない自分への苛立ち、不安やもどかしさ、色んな感情が渦巻いて、周りどころか前も見ずにフラフラと歩いていた。
だから横断歩道の信号が赤なことにも、横から大きなトラックが猛スピードで迫っていることにも気付いていなかった。
トラックがけたたましいクラクションを鳴らしてようやくハッとした時にはもう遅くて、私は赤信号の横断歩道のど真ん中で固まるように立ち尽くした。
もうダメだ。このまま死んじゃうかもしれない。



