もし今、私が命を失ったとして、先輩に『他の人と幸せになって』と言えるのか。答えは『NO』だ。

 自分よりも相手の幸せを願う強さも美しさも、私は持っていない。ただ自分勝手に相手を、楓先輩を好きでいることしかできない。

「愛じゃなくていい。まだ恋をしていたい。そう言ったら、先輩はどう思いますか?」

 驚いた顔をしたあと、先輩は笑った。とても嬉しそうに、とても幸せそうに、笑った。

「俺は菜々とずっとふたりでいたい。ふたりで幸せになりたい。俺も、菜々とずっと恋をしていたい」

 私たちはもう子供じゃない。たくさんの悩みや葛藤を抱えながら生きているし、本気で人を好きになれる。一生に一度の恋ができる。

 でもきっと、愛を語れるほど大人じゃない。それでいい。それがいい。

 私は、愛にならない恋がしたい。