「俺が辛い経験から立ち直れるようにって、そう心の中で願ってくれた。受験頑張れってエールをくれた。菜々のおかげで俺は前に進めた。菜々が、俺をこの世界に引き止めてくれたんだ」
思ってもみなかった真実に目を見開く。先輩は、偶然言葉を交わしただけの私をずっと覚えていてくれたの……?
私はふと、京ちゃんとふたりで二年八組に行った時の楓先輩の驚いた様子を思い出した。
『あ、君……!』
あれは事故の時のことを覚えていたわけじゃなくて、その時の中学生の女の子が私だって気付いてくれたから……?
「うん。俺の忘れられない子は、中学生の頃の菜々のことだよ。ずっともう一度会いたいって思ってた」
彼は真っ直ぐな眼差しを向けて、噛みしめるように言った。
「希美に恋愛感情はなかったけど、俺にとって両親以上に近い家族のような存在だった。命日には会いに行くし、今も大切に思ってる」
私はゆっくりと頷いた。



