楓先輩が語ったのは、希美さんが亡くなった直後。先輩が中学三年生、私が二年生の頃だという。
道端でバッグの中身を散らばらせてしまったところに、私が通りかかったらしい。
「希美の形見の参考書を拾ってくれた女の子の優しさに勝手にイライラして、八つ当たりしたんだ。『俺のじゃない。その参考書の持ち主は、俺のせいで死んだんだ』って、見ず知らずの女の子に言ったんだ。今思えば、サイテーだよな」
自嘲めいた笑顔に、胸がぎゅっと苦しくなる。
「でもその女の子が言ってくれた。『この参考書の持ち主は、あなたがそんな辛そうな顔をするのを望んでいないと思います』って」
先輩の話を聞きながら、うっすらと記憶が蘇ってきた。
たしか中学生の頃、自分と同じように大切な人を亡くしたであろう男の子と出会ったことがある。
私は天国で見守っているお母さんに心配をかけないよう、笑顔で生きていくべきだと思っていた。自分勝手な正義感でその男の子にもそう言ったら、目の前の男の子は一筋の涙を流した。泣かせてしまったと焦って、私は慌てて謝ってその場を走り去った気がする。



