土手に設置してある古いベンチに腰掛け、大きく深呼吸した。

 ひゅっと通り抜ける風は冷たく、先輩が巻いてくれたマフラーがなければ、こんな風に外を歩けなかったかもしれない。

 柔らかいマフラーをきゅっと掴みながら背もたれに上半身を預け、冬の透き通った空を見上げる。あの空の向こうに、お母さんはいるのかな。

「菜々」

 ぼうっと思いを馳せていたところに名前を呼ばれ、反射で身体を起こす。

 振り返ると、そこにいたのはお父さんだった。

「なんで……」
「菜々が早い時間から家にいなくて驚いたけど、真央に聞いてもなにも教えてくれなくてね。困っていたら、佐々木楓くんという男の子が家に来たんだ」
「楓先輩が……?」

 お父さんの口から楓先輩の名前が出て驚いた。