それでもキミと、愛にならない恋をしたい


「こんな時間からすみません。菜々とどうしても話したくて」

 玄関から届く、低く芯のある声が私の鼓膜を震わせた。

「……楓先輩」

 私に気付いた先輩の視線が、真央さんを通り越して私に向けられる。

「菜々」
「先輩、どうして……朝練は?」
「あんなライン送られて、朝練なんてしてられるわけないだろ」

 楓先輩が苦しそうに顔を歪める。

 どう答えたらいいかわからずに呆然としていると、真央さんが楓先輩を玄関口で待たせたままこちらへ来て、私にしか聞こえないくらいの声で言った。

「話したくないなら、体調を理由にして帰ってもらうよ」
「真央さん……」
「でも、お別れを決めるのは彼の話を聞いてからでもいいのかなって、あの必死な様子を見たら思っちゃった。お節介でごめんね」